「時制都市」は砂漠や森林、海面上昇に侵食される沿岸部など、過酷な自然環境に適応するために生み出されたリジェネラティブ・アーバニズムです。
この都市を特徴づけるユニークなユニット建築群は、時間をテーマにした都市デザインのシナリオに沿って、干ばつや山火事、洪水や高潮などの災害の猛威に対処しています。
この都市の住宅はすべて、急激な海面上昇による潮位の変化や洪水に柔軟に対応する、モジュール型の「親水性(しんすいせい)居住ユニット」に置き換えられました。ユニットのデザインは、この地域の伝統的な一戸建てを原型とし、建設コストが低く短時間で設置できるため、既存の住宅ストックからの速やかな置き換えが可能でした。ユニットは住人のニーズに合わせてサイズを拡張可能で、組み合わせればショッピングセンターや発電所など、都市生活を支える大型のインフラ施設も建設できます。
「親水性居住ユニット」の集合体は、敷地に固定された住宅群から、水位の変動とともに半浮動式の都市へ、やがては完全な海上都市へと段階的に変化します。この時制都市のユニークな生存戦略は、海面上昇による都市の水没という悲劇的なシナリオに代わる物語であり、そう遠くない未来において、人類の居住地が陸地から海上へと進出していくプロセスを私たちに示しています。
森林火災が頻発する森林地帯のユニット建築は、「イチョウ型煉瓦(いちょうがたれんが)株式会社」が製造する耐火性セラミックタイルと、バイオプラスチック製の内装材で建設されています。
セラミックタイルは現地の土を3Dプリンタで成形・焼成して作られ、これを各ユニットのファサードに使用することで延焼を防ぐことができます。耐火タイル製ユニットが同じ方角を向いて連結するユニークな都市構造には、火災を助長する強風を攪拌・減退させる機能があるほか、外壁につたう雨水を集水することができ、蓄えた水を都市緑化と生物多様性の保全に役立てます。
バイオプラスチックの内装材は、間伐材(かんばつざい)や丸太を製材する過程で生じる端材を再利用したエコ素材で、森林内の可燃性廃棄物を積極的に消費することで、森林火災のエネルギーを弱めています。
「イチョウ型煉瓦株式会社」はこのように、居住区の整備と森林保全のサイクルをシンクロさせながら、機能的でエコフレンドリーな資材を製造・輸出し、地域経済を活性化させています。
砂漠地帯の時制都市は、「保湿堤防」によって洪水と干ばつという両極端な災害に対応しています。「保湿堤防」は、河川の氾濫やゲリラ豪雨から居住地を防御するだけでなく、余剰となった水を地層に吸収して蓄えることができます。雨季に集水した大量の水を地下帯水層(たいすいそう)へと浸透、濾過、貯水し、乾季にこれを農地に分配するシステムによって、蒸発による損失を防ぎ、砂漠を田園地帯に作り替えていきます。
「保湿堤防」が生み出す湿地帯は森を育み、再生した自然は保水力と生態系を回復して、洪水の抑制に役立っています。水辺の生物多様性は農業の多角化と、再生可能エネルギーの導入を可能にし、もうひとつのライフラインであるバイオマス発電プラントは、農業の副産物や都市生活の廃棄物を再利用し、砂漠の都市に暮らすおよそ500人の生活に充分な電力を供給します。
このように砂漠、海岸、森林のコミュニティは、「時間」をテーマにしたユニット建築による戦略的な都市計画と、土壌や植生のダメージを回復させるエコロジカルな産業構造の開発により、水没、山火事、干ばつの脅威に直面する他の都市に新たな生存戦略を示しています。