この井戸で紹介するリジェネラティブ・アーバニズムは、住民参加型で行われる都市開発の物語です。
この地域の都市部は高い山に囲まれた盆地に位置し、気温上昇の影響で慢性的な水不足と干ばつを抱えてきましたが、行政と住民が一体となった都市緑化ネットワークでこの問題を解決しました。
100年周期で津波の被害を受け続けていた沿岸部では、治水への住民たちの積極参加により、かつての地形と穏やかな自然環境を取り戻し、山岳地帯にある文化遺産の都市集落では、文化や立場を超えた人々の協働が、伝統に根差した景観保全と地域の活性化を実現しています。
「クーリング・タウンスケープ」は、 ヒートアイランド現象に対応したリジェネラティブ・アーバニズムです。乾燥した市街地に水のネットワークを張り巡らして、建築物を保水性に優れた多孔質の素材と壁面緑化で覆うことで、都市の中に緑の回廊を作り出すこの政策の実現には、緑化のメリットを共有する民間のステークホルダーの協力が不可欠でした。
海に面した低平地では、水面、草地、森林、水田などの、保水力の高い植生域を、官民一体で開拓しました。かつて海へとダイレクトに排出されていた水はこの植生域で濾過され、水資源として都市に還流しています。
土地所有の概念を超えて人々が協働する「クーリング・タウンスケープ」は、干ばつやゲリラ豪雨などの災害リスクを軽減するだけでなく、そのエコロジカル連帯によってコミュニティをより強固なものにし、都市における格差社会の是正にもつながっているようです。
この沿岸部は、津波や高潮の危険性を抱えています。周期的に発生する深刻な水害と、何世紀も共存してきた現地のコミュニティは、先人たちが人の手で築いた防波堤と防潮林による景観を維持し、古い運河などの遺構や、災害の恐ろしさを後世に伝える記念碑を、世代を超えるコミュニケーション・ツールとして継承してきました。
「対話都市」の「メモリアル・ランドスケープ」は、こうした災害が生んだ歴史遺産に光をあて、住民や観光客を引き込む水辺の公共空間として再整備することで、地域の防災意識を高めています。防潮堤と防潮林は水害対策の要として補強し、運河は住民たちによって水運、水産、観光に利用されますが、津波発生時はその貯蓄機能を、波の伝播遅延(でんぱんちえん)と高さ低減に役立てます。中世から続く歴史的景観は、水害から暮らしを守る貴重な遺産として再定義され、次世代に災害を共に生きる自然観を継承していくことでしょう。
山岳地帯の景勝地にある昔ながらの集落では、地元住民が何世代にも渡って大きな地震や地滑りからの再建を繰り返しながら、厳しい自然環境と共存する傾斜地の景観や、果樹栽培や伝統工芸などの地場産業を守っていました。都市型のライフスタイルから隔絶する、こうした山里におけるリジェネラティブ・アーバニズムは、伝統的な共同体との対話のなかで、文化の再解釈と現代化を丁寧におこなう必要があります。
「コミュニティトレイル」は、梅酒の名産地として名高いこの地域を、アグリツーリズムやネイチャーツーリズムの起点として再開発し、都市部や他の農村地域との文化経済ネットワークに組み込むプロジェクトです。都市生活者にとって魅力的なエコパークや刺繍(ししゅう)工房、住民主催のフェスティバルのための広場など、耐震性を備えた施設が、文化資源と地域経済を同時に活性化しています。
このように「対話都市」の街づくりは、行政や専門家が主導するのではなく、地域固有の生態系や文化についての綿密な調査を基に、専門家と住民の対話と協働で進められます。
気候変動が引き起こす災害という共通の危機が、立場や地域をこえた対話と協働を生み、結果として都市全体の強靭化と、包括的で相互扶助的(そうごふじょてき)な社会構築を成し遂げているのです。